はじめに──施行まで残りわずか、準備はお済みですか

子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を確認する「日本版DBS」を含む、こども性暴力防止法(正式名称:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律。令和6年法律第69号)が、2026年12月25日に施行されます。

認可保育所や放課後等デイサービス・児童発達支援などの障害児通所支援事業は、公立・私立を問わず法律上の義務対象です。「うちは小規模だから関係ない」ということはありません。

本コラムでは、こども家庭庁の施行ガイドライン(令和8年1月公表)を踏まえ、施行前に事業者が整備しておくべき事項を、特に労働法上のリスクという観点から解説します。

制度の概要──事業者に課される4つの措置

義務対象事業者には、施行後、次の措置が求められます。

  1. 犯罪事実確認:従事者について、特定性犯罪の前科の有無を国(こども家庭庁)を通じて確認する。新規採用者は採用時、現職者は施行後3年以内、以後5年ごとに再確認。
  2. 安全確保措置:子どもとの面談やアンケートによる被害の早期把握、相談体制の整備、従事者への研修など。
  3. 防止措置:性犯罪前科が判明した場合や性暴力のおそれがあると判断される場合に、子どもと接する業務に従事させないなどの措置。
  4. 情報管理措置:犯罪事実確認の結果等の厳格な管理。漏えい時には国(こども家庭庁。場合によっては個人情報保護委員会。)への報告義務があります。民事上の損害賠償請求の対象ともなり得ます。

なぜ「施行前」の準備が決定的に重要なのか

犯罪事実確認の結果、従事者に特定性犯罪の前科があることが判明した場合、事業者はその人を子どもと接する業務に従事させないための措置(内定取消し、配置転換、場合によっては解雇など)を講じなければなりません。

しかし、法律に基づく措置であっても、労働法のルールが免除されるわけではありません。そして、措置が法的に有効かどうかは、「採用時・施行前にどのような準備をしていたか」でほぼ決まってしまいます。

採用時に前科の有無を確認していないと、内定取消しができない可能性

判例上、採用内定の取消しは「内定当時知ることができず、知ることが期待できないような事実」を理由とする場合などに限って認められます(最高裁昭和54年7月20日判決)。

このため、採用選考の過程で特定性犯罪の前科の有無を書面で明示的に確認していなかった場合、内定後の犯罪事実確認で前科が判明しても、法的に有効な内定取消しができないおそれがあります。

逆に、募集要項に採用条件として明示し、誓約書で前科がないことを確認していれば、虚偽の申告は「重要な経歴の詐称」として、内定取消しや懲戒処分の根拠となり得ます。

就業規則に規定がないと、配置転換や懲戒処分の根拠を欠く

配置転換を命じるには就業規則上の根拠(配転条項)が必要です。また、保育士や児童発達支援管理責任者のような資格職は、雇用契約上「職種限定の合意」があると判断され、本人の同意なく配置転換できない場合があります(最高裁令和6年4月26日判決参照)。

懲戒処分も、就業規則にあらかじめ懲戒事由と処分の種類を定めて周知していなければ行えません。

つまり、施行後に問題が起きてから規程を整えても手遅れになりかねないのです。

万一のトラブルの際に、事業所と職員・児童等を適切に守るためにも、少しずつ準備を進めていきましょう。

施行前チェックリスト

こども家庭庁のガイドライン(別紙1〜11としてひな型・参考例がWord形式で公開されています)を踏まえると、最低限、次の整備が必要です。

  • GビズIDの取得と、事業者情報の一括登録の準備
  • 対象業務従事者の範囲の整理(送迎担当やパート職員、ボランティアも対象になり得ます)
  • 就業規則の改訂:①児童対象性暴力等・不適切な行為の禁止、②犯罪事実確認への協力義務、③配置転換等の根拠規定、④懲戒事由への追加(「重要な経歴の詐称」を含む)、⑤情報の守秘義務
  • 採用書類の整備:募集要項・求人票への採用条件の明示、誓約書、内定通知書(内定取消事由の記載)
  • 児童対象性暴力等対処規程・情報管理規程の策定
  • 相談窓口・報告ルールの整備と職員への周知
  • 職員研修の計画・実施

就業規則の変更には、過半数代表者からの意見聴取と労働基準監督署への届出、全職員への周知という法定手続が必要です。手続だけでも時間を要しますので、早めの着手をおすすめします。

弁護士へのご相談のすすめ

防止措置として行う内定取消し・配置転換・解雇・懲戒処分は、いずれも労働紛争に発展しやすい類型です。こども家庭庁のガイドライン自体が、事前準備の段階から法令・裁判例を踏まえた対応の必要性を指摘しており、国も弁護士による事業者支援を予定しています。

まとめ

  • こども性暴力防止法は2026年12月25日施行。保育園・放課後デイは公私を問わず義務対象
  • 犯罪事実確認・安全確保措置・防止措置・情報管理措置の4つが求められる
  • 前科判明時の措置の有効性は施行前・採用時の準備でほぼ決まる
  • 就業規則・採用書類の整備には法定手続が必要なため、早めの着手が不可欠
  • 雇用上の措置は紛争リスクが高く、整備段階からの弁護士関与が予防法務として有効

【免責注記】
本コラムは一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談ではありません。具体的なご事情については、弁護士にご相談ください。

(本コラムは2026年6月時点の法令・こども家庭庁公表資料に基づいています。)

参考:こども家庭庁ウェブサイト